市場原理だけでは解決しない地球温暖化問題

執筆者:五十嵐卓2000年2月号

 一月十八日、世界銀行は二酸化炭素(CO2)をはじめとする地球温暖化ガスの排出権取引の活発化を狙った「炭素基金」の創設を発表した。先進国政府、企業から資金を集め、途上国での温暖化ガスの排出削減プロジェクトに出資、削減実績を排出権として出資者に“配当”する仕組みだ。出資者である先進国政府や企業は受け取った排出権を自らに課せられた削減義務の一部に充当でき、その分の義務履行を免除される。 石油、石炭など化石燃料を消費することによって発生したCO2などは、見方を変えれば「負のエネルギー資源」といえる。「石油の世紀」とも呼ばれる二十世紀はエネルギー資源をめぐり多くの戦争が発生し、国家、企業の盛衰も起きた。世紀末の炭素基金創設は二十一世紀が、二十世紀型のエネルギー争奪に加え、「負のエネルギー資源」をめぐる緊張も抱え込もうとしていることを象徴している。市場規模は数百億ドルとも まず、地球温暖化の問題を整理しておこう。燃料消費で発生するCO2が大気圏内に蓄積すると、大気圏外への熱放散を阻害し、地球が温室化するとの研究結果が八〇年代から本格的に叫ばれ始めた。八八年に先進各国は「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)を設置している。九二年にリオデジャネイロで開かれた地球サミットでは、温暖化防止を目指す「気候変動枠組み条約」が百五十五カ国によって署名された。その後、九七年に京都で条約締約国による会議(COP3)が開催され、二〇〇〇年以降の温暖化ガス削減義務が具体的に決められた。IPCCの試算では大気圏のCO2濃度は毎年〇・五%の勢いで伸び、このままCO2排出を放置すれば、二十一世紀末には地球上の平均気温は二度上がり、海水面が平均五十センチ上昇する、という。各国に厳しい削減義務を与える必要性は確実に高まっているのである。

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