「トウ小平はなぜ江沢民を後継者に選び、どのようなプロセスを経て、権力を引き継いだのか。(中略)権力核心について書くことにより、なぜ学生があんな無残な死に方をしなければならなかったのか、彼らの死がこの国でどういう意味を持っているのかといったことも、わかるのではないか」(上村幸治『中国 権力核心』文藝春秋刊 一九〇五円)

 著者は本誌への執筆でもおなじみの中国問題専門のジャーナリスト。香港特派員として駐在中に北京入りして天安門事件に遭遇、その後北京特派員として中国報道にあたってきた。

 自分自身、「死ななかったのは、偶然といってよい」言う天安門事件の際、目の当たりにした学生たちの死に憤りを感じ、その死の責任者とも言うべき中国政府の権力者たちの有り様を解き明かしたいという思いを持つに至ったと語る。天安門事件には、八〇年代の中国が抱える矛盾、そしてその後十年の出来事の萌芽があったとし、事件の克明な記録から本書を始めている。

 権力を梃子に経済改革を推し進めたトウ小平の死、その後継者と目された胡耀邦や趙紫陽の失脚、そして、当初は凡庸な指導者と言われた江沢民が着々と権力固めをしてきた十年。その権力中枢のドラマを、経歴、家族関係等から政治家の人物像を掘り起こしながら、丁寧に描き出してゆく。

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