不況が長く続いたのに、東大阪商工会議所の専務理事、湖中齊氏(六四)は忙しい。「こんな部品を作れる業者を紹介してくれないか」という問い合わせがひっきりなしなのだ。この世にまだ存在していない部品の注文で、設計図片手の問い合わせである。商工会議所が紹介した件数は年々増加しており、昨年は二百三十、今年は三百を超えそうだという。 東大阪市。大阪府の東部、生駒山の麓に広がる河内平野の街。東西十一・二キロ、南北七・九キロ、面積六十一・八一平方キロメートル。人口五十一万七千人。大阪府下では大阪市、堺市についで三位の街だが、全国一を誇る数字がある。一平方キロメートルの工場数で、百七十三。二位が東京の大田区百三十。断然のトップだ。工場の絶対数で見ても東京都二十三区、大阪市、名古屋市、京都市の次に東大阪市があり、全国五位。しかも、従業員三百人以下が九九・九%。東大阪市は世界でも珍しい中小企業の街である。 平坦で一見殺伐とした街を歩くと、不思議な建物にぶつかる。ブロック塀にスレート屋根で、平屋建て、ないしは二階建て。ひとつの建物なのに「○○製作所」、「××精工」といった看板がいくつもぶら下がっているのだ。工場の長屋である。一棟が数戸に間仕切りしてあり、一戸当たりは平均して六十六平方メートル。従業員三、四人の零細工場だ。この民間工場アパートが東大阪にはなんと五百棟以上ある。これもまた他には見られない現象だ。

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