国外でも激化する中台外交戦

執筆者:西川恵2000年3月号

 アルゼンチンのフォークランド沖で操業中の台湾の遠洋イカ釣り漁船「厚春一〇一号」がアルゼンチン海軍艦船に拿捕され、海軍基地に曳航されたのは二月四日夜のことである。国連海洋法条約に定められた排他的経済水域である二百カイリ内に入って違法操業を行ったという理由だった。

 台湾はアルゼンチンと外交関係がない。第一報を受け取った台湾外交部(外務省)は、首都ブエノスアイレスにある台湾代表部に事実確認と当局との早急の接触を指示した。

 外交関係のない国でこの種の事件が起きると、台湾にとっては厄介なことになる。外交ルートがないため、代表部が直接相手国の外務省に接触する訳にはいかないからだ。日本でいえば交流協会のような外務省の外郭団体を通じて接触することになるが、時間もかかるし情報も精度を欠く。

 しかしもっと厄介なことがある。現地の中国大使館が機先を制し、「一つの中国」の原則から「漁民は中国公民である」と、身柄の確保に動く可能性があるからだ。外交関係のある中国は、その国の政府当局者と直接交渉が出来、台湾代表部と比べてはるかに優位な立場にある。中国大使館が台湾代表部を差し置いて当局から台湾漁民の身柄を引きとり、第三国経由で台湾に送り返して台湾の人々に「中国の善意」を見せつけるということが、実際これまでも再三あった。

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