「陳水扁の台湾」に臨む江沢民政権の本音

執筆者:伊藤正2000年4月号

“陳水扁当選”は中国政府が最も警戒していたシナリオだが、「一つの中国」という大前提が崩れ去ったわけではない。「中台接近」が意外に進む可能性もある。独立も統一も現実的でないなか、中台問題は新たなスタート地点に立った。

 台湾総統選終盤の三月中旬、都内で開かれた中国研究の権威、竹内実先生の叙勲受章を祝う集いで、先生は、中国でブームになっている「闘蟋蟀」(コオロギ同士を闘わせる遊び)のビデオを披露した。二匹のコオロギをそれぞれの飼い主が盆状の器に投じ、自分のコオロギの周りを細い棒で小刻みにつついて興奮させ闘わせるのだが、そこに行くまでに長い時間がかかる。しかも組みつき合うのはほんの一瞬で、素人目には勝敗の判別もつかない。

 清代に始まった中国独特の闘蟋蟀は、闘犬や闘鶏などとは違って対戦相手を傷つけることが目的ではない。むしろ飼い主が、闘争本能の希薄なコオロギをけしかける技術と根気を競い合うゲームのようだ。竹内先生は、これを中国の「挑発の文化」と言い、かつて訪日した中国の要人が北方領土問題で日本人の反ソ感情を煽ったのをその一例に挙げた。中ロ関係が改善された現在では、北方領土に言及する指導者も報道機関もないが。

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