渋谷という街には、大手町、丸の内、霞が関にあるような秩序感覚はない。青山や表参道ほどにはファッショナブルでもない。新宿や池袋の雑踏に潜む、汗と涙のやるせなさもない。あるのは若者たちの臆面もないさんざめきと、ラウドスピーカーから流れる刺激的な音楽と、服装や看板の雑多な色彩だ。そのヘソの部分にあたる渋谷駅に隣接して、にょっきりとそびえ立つのが二十五階建ての渋谷マークシティ。たちまち渋谷の新名所になった。 オフィス棟には百近い申し込みがあったそうで、二十にまでしぼられたテナントは見事なまでのカタカナ企業。エイチ・アイ・エス、NTTエレクトロニクス、サイバーエージェント、モバイルステーション・ドット・コム、コナミ、GEエジソン……。その半分はインターネット・ビジネスを営むベンチャー企業である。ここを軸に渋谷周辺には、三百社に上るネット企業が集積する。 彼らに吸いよせられるように大手企業も集まる。NTTコミュニケーションズは渋谷の代官山に電子商取引のシステム開発拠点を、三和銀行はベンチャー企業への投資や連携を促す「Eビジネスサポートセンター」をそれぞれ開設。銀行、証券会社、その他のベンチャーキャピタリストたちが起業家詣でをしている。

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