東証の大いなる凋落

執筆者:石山新平2000年5月号

乾坤一擲の「マザーズ」開設も信用失墜を招いただけ

 高さ十メートル、直径十七メートルのガラス張りの巨大な筒の上部を、電光表示の会社名と株価が次から次へと回っていく――。五月十五日、東京証券取引所内にオープンした「東証アローズ」の目玉は、あたかも、ひと昔前の未来映画の宇宙船のように、明るく無機的である。利益への欲望が、汗や怒号や人いきれとなって渦巻いていた株式売買の「立会場」が、つい一年前までそこにあったことなど、もはや想像するのも難しい。

 実際、この巨大な筒の機能は立会場とはまったく役割が違う。中では売買監理室の職員が、大型スクリーンや机上のコンピューターを使って、株式などの売買状況を監視している。東証は「取引所の中心機能」だと強調するが、そこには「売り手」も「買い手」も姿をみせない。

 この新施設「東証アローズ」の位置づけは「複合情報発信基地」。会社説明会などに貸すための場所や、有価証券報告書の閲覧室なども設けたが、最大の狙いは「絵になる見どころ」を作ることだった。八九年のピーク時には年間二十万人にのぼった見学者が、立会場を閉鎖したここ一年は二万人にまで激減、「目に見えるものがないと、社会科見学にも来てくれない」と東証の幹部がボヤくほどだったからだ。

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