企業の資金調達コストが高まる一方、構造改革の停滞も招く

[ロンドン発]欧州単一通貨ユーロの導入からまもなく一年半。ユーロ相場はドル、円など主要通貨に対し一九九九年一月の誕生からほぼ一貫して下落し、五月上旬には一ユーロ=〇・八八ドル、九四円台の最安値を記録した。六月に入り米景気の減速観測からやや持ち直したとはいえ、誕生前にさかのぼった試算でも、大陸欧州通貨は実質的に八五年以来の安値水準にある。欧州中央銀行や独仏政府など、ユーロ圏当局者の政策手腕が市場の信任を得ていない上、経済の構造改革が遅れていることが一方的なユーロ売りを招いたとされている。

 もっとも、この通貨安の中で、政治家たちは楽観的だ。「輸出業者が恩恵を受けているのにユーロ安を嘆くべきではない。私はユーロ安を心配していない」――。ユーロ相場が下げに向かった五月初め、国内テレビのインタビューを受けたシュレーダー独首相は、こう見得を切ってみせた。

 実際、欧州委員会による春期経済予測でも、二〇〇〇年の欧州連合(EU)の実質GDP成長率見通しは三・四%に加速するとされている。ドイツ統一の後遺症などで二%前後の低成長と一〇%を超す高失業を続けた九〇年代とは打って変わった様相だ。輸出増で生産が回復し、企業が雇用を増やしたことから、失業率も一〇%を大きく割り込んでいる。マクロ経済指標を見る限り、当面の懸念材料は通貨安による輸入インフレ圧力くらい。ファビウス仏蔵相が「ユーロ圏は過去十五年で最良の状態にある」と言明するように、大陸欧州経済が通貨安をテコにして、ひさかたぶりの好況局面を迎えているのは確かだろう。

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