縮小に向かう原子力発電

執筆者:2000年7月号

経済性の喪失と担い手の減少があいまって ドイツ政府が電力業界と原子力発電所を将来、全廃することで合意したというニュースが、全世界を駆けめぐったのは六月十五日のこと。日本のある電力会社の役員のもとには、ロンドンなどの海外事務所から、この情報を伝えるメールが送られてきた。「よく電力会社が妥協したな」。こう痛感せざるをえなかったという。 日本で原発を推進してきた通産省と電力業界は表向き、「ドイツと日本は事情が違う」と静観の構えをみせた。電気事業連合会の太田宏次会長(中部電力社長)は翌日の定例記者会見で、「ドイツは隣接国から電気を買えるし、天然ガスのパイプラインもある。エネルギーの九〇%を海外から輸入している日本はこれからも原子力を大切に育てていく必要がある」と力説した。だが、推進一辺倒できた日本の原子力政策に、見直し機運が広がっている。困難になる新規立地 四月から始まった総合エネルギー調査会(通産相の諮問機関)の総合部会では、早くも原子力を巡る議論が熱を帯びてきた。六月二日の総合部会でゲストに呼ばれた東京大学の八田達夫教授は、三月から大口電力の小売り自由化が始まったことを取り上げて、小売り事業の新規参入者と電力会社の競争条件を対等にするため、国の政策として原子力の「特別扱い」をやめることを訴えた。地球温暖化対策やエネルギーの安定供給といった課題には、炭素税やエネルギーセキュリティー税などで対応することもあわせて提案した。

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