湾岸産油国の“危うい”改革

執筆者:山田剛2000年8月号

経済改革が君主制を揺るがす「民主化要求」につながるのは確実[バーレーン発]「豊かな時代は終わった」――。世界最大の産油国サウジアラビアのアブドラ皇太子は、九八年十二月の湾岸六カ国サミットでこう宣言し、各国国民に倹約と経済的自立を呼びかけた。それは莫大な石油収入を背景に、医療費・教育費から電話代まであらゆる生活コストを無料または格安に押さえてきた「国家丸抱え」への決別でもあった。 折しも国際原油価格が十二年ぶりの安値に落ち込んでいたこともあり、この発言を契機に、各国の経済改革は大きく動き始めた。湾岸戦争以来の赤字体質からの脱却が遅れ、人口の急増に対応するためのインフラ整備で巨額の支出を迫られた各国は、WTO(世界貿易機関)体制への本格的な移行を控えた米英など先進諸国の外圧などもあって外資導入や民営化、補助金削減、公共料金値上げなどの対策を相次ぎ打ち出している。 だが「油上の福祉国家」の手厚い保護に慣れ親しんだ国民にとって、にわかに負担が増える経済改革には早くも反発が広がっている。先進国同様に受益者負担の原則を採用すれば、見返りに政治参加拡大などの民主化要求が高まるのは避けられない。それは君主制を敷く湾岸各国にとって支配体制を揺るがしかねないきわめて危険な処方箋なのである。

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