国際危機グループ(ICG)

執筆者:木下玲子2000年8月号

紛争の予防を主眼とする国際NGOは、ジョージ・ソロス一人の財政支援で始まった――。 すべては、サラエボからザグレブに向かうUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の飛行機の中での二人の会話から始まった。 一九九三年の一月。モートン・アブラモヴィッツは、マーク・マロック・ブラウンとその飛行機で隣り合わせに座った。アブラモヴィッツは米国人で、カーネギー国際平和財団理事長。ブラウンは英国人で、広告代理店経営。二人はボスニアの首都サラエボで何日かかけて現地を視察した後、帰るところだった。 アブラモヴィッツは一九七〇年代末、米国の駐タイ大使をしていたが、ブラウンとはそのころからの知り合いだった。当時ブラウンは、カンボジア難民キャンプを立ち上げるためにUNHCRのタイ事務所で働いていた。ベトナムがカンボジアへ侵攻、ポル・ポトの民族虐殺が世界に知れ渡る、あの殺戮の平野の血塗られた時代である。 二人は、サラエボでのお互いの見聞を話していくうち止まらなくなった。 いまのような難民救済や国際支援をいかにしようと、同じような悲劇が次々と起こるに違いない。国際社会はそれが起こってからあたふたと大騒ぎするだけだ。なぜCNNが報道してから外交が始まるのか、全くばかげている。そうではなく、なぜ悲劇が起こる前に行動しないのか、なぜ悲劇を起こさないように予防できないのか――。

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