「援助」では止められない印パの核危機

執筆者:馬場友美2000年9月号

ほとんど成果がなかった「森訪問外交」 八月下旬、森喜朗首相はインド、パキスタンなど南アジア四カ国を歴訪し、インドとパキスタンに対し、「核軍縮・平和外交」を展開した。九八年五月の核実験で事実上の核保有国となったインドとパキスタンについては、バジパイ印首相、ムシャラフ・パキスタン陸軍参謀長の双方から「核実験凍結の継続」の言質を引き出したとして、「一定の成果」を挙げたとの自信を強めているようだ。 またインドに関しては、米印が「IT」(情報技術)分野で連携姿勢を深めていることから、日本としても遅れをとらないよう対印関係の改善が急務となっていた。「ITは日本経済を牽引する神風」が最近の口癖とされる森首相だけに、IT分野を中心とした日印経済交流の拡大に一応の先鞭をつけたことも、「森カラー」を出せたとの自負につながったようだ。さらに、インドとの接近を図ったことで、中国をにらんだ日本の今後のアジア政策に多角化の余地が生まれたことも見逃せない。 ただし、焦点となっている包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名に関しては、印パ両国とも確約はしなかった。それに「核実験の凍結」は、両国が九八年に核実験を実施した直後に相次ぎ表明済みだ。森首相が、印パに改めて実験凍結の立場を再確認させた意義は決して小さいとは言えないが、森首相の歴訪で印パ両国の核政策が具体的な変化を見せたわけではないのもまた事実なのだ。

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