ロシア「海底の死」「空中の死」

執筆者:徳岡孝夫2000年9月号

 謎と百十八人の遺体を抱いてバレンツ海の底に沈んだロシア原潜「クルスク」について、やっと信じるに足る情報が出てきた。ノルウェー南西部のベルゲン港に入った米海軍の潜水艦「メンフィス」が、海中で二度、爆音を聞いたという。ペンタゴンが、その報告を公表した。 約二分の間隔をおき、二度目は最初のより大きい、明らかに大爆発だった。米潜の乗組員は「何か大変なことが起った」と、鳥肌が立ったそうだ。 音をキャッチしたソナー・テープもある。艦名は不詳だが、別に一隻の米潜も爆音を聞いた。専門家によれば魚雷の発射演習中に爆発が起き、それが火薬庫に引火したらしい。「クルスク」の前部は爆発によって吹っ飛び、防水隔壁を閉めるまでもなく浸水したのだろう。いまとなっては、艦体を内側からガンガン叩いて救いを求める音がしたという情報も少し怪しくなった。「メンフィス」は、事故の六日後ベルゲンに帰投して報告した。 ロシア海軍が演習すれば、米海軍の艦艇がピッタリと寄り添って一部始終を「見学」する。その逆もやっているはずである。 三十年前の話だが、ベトナム戦争中に私は南シナ海の米空母を取材したことがある。ペンタゴンが北爆(北ベトナム爆撃)の中止命令を出すと、三分後には米空母からの発進がピタリと熄み、一分後には素っ裸になった航空司令が、甲板のデッキチェアの上で日光浴を始めた。帝国海軍には想像もできない光景だった。

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