法務省叩きを招いた三つの理由

執筆者:矢吹信2000年9月号

 八月三十日午前、首相官邸。かつてロッキード事件で「政界主任弁護士」との異名をとった男は、終始、喜色満面だったという。 保岡興治法務大臣。森首相、中川官房長官らとの三十分弱の会談を終え、官邸入り口で記者会見に臨んだ。会見にテレビカメラは間に合わず、また新聞でもほとんど報道されなかったが、保岡氏にとっては政治信条の実現に向けた極めて重要な一瞬だったと言える。「行政規制の時代から、事後監視社会に転換する日本。それには、新時代を支える立法能力や司法基盤の充実が欠かせない。総理からは具体的検討をするようにとの指示を受けた」 保岡氏は総理との会談内容をこう説明した。首相との会談は民間研究団体、「司法改革フォーラム」(会長・鈴木良男・旭リサーチセンター社長)が求めたもので、「官邸から保岡氏にも同席要請があった」(官邸関係者)という。 同席要請があったのは、法務大臣の保岡氏が自民党司法制度調査会の前会長で司法改革に情熱を燃やしていたからだけではない。会談に先立つ八月上旬、司法改革フォーラムが公表し、この日首相に手渡した緊急提言のなかにこんな件があったことも関係していると思われる。「法務省は、商法、民法、刑法など基本法を所管するが、改正作業スタッフの不足から、基本法の見直しが遅れている。歴史的な立法期にあたり、法務省が機敏に対応できないことは国家の危機的状況だ」

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