ダイエーの創業者である中内功会長が退任した。来年5月には取締役も退くというから、遂に“完全引退”を決意したといっていい。 直接の契機は、経営不振に陥り、有利子負債2兆数千億円を抱えるダイエー再建のためにリストラを推進してきた鳥羽董社長が、系列企業のインサイダー取引疑惑で辞任したことに絡んでだが、中内氏の引退は単なる一企業の人事を超えて、時代の転換点を感じさせる象徴的な出来事と捉えるべきだろう。佐野眞一氏が『カリスマ』(日経BP社)で描いたように、中内氏は「巨大な消費社会を短期間で築きあげ、われわれの生活を一変させていった最も“戦後的人物”」だからである。 隆盛期のダイエーをモデルにした城山三郎氏の小説『価格破壊』(角川文庫)にも、中内氏と思しき主人公がこう語る件がある。「うちはあくまで正しい。堂々と価格破壊を続けよう。どんな妨害があろうと、メーカーがどんな小細工をしようと、水が最後には低いところへ流れるように、消費者はうちへ流れてくる」 まさに中内氏は「ミスター価格破壊」であり、「消費者至上主義」の信奉者だった。しかし、皮肉にもこの「価格破壊」の思想こそが、際限なき拡大志向を生み、ピーク時は売上高5兆円と流通最大手を誇った「ダイエー王国」を最後は落日に導いた根本的原因だったのではないか。

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