中国に何が起こるか

執筆者:徳岡孝夫2000年10月号

 未来を語るのが専門のアルビン・トフラーを翻訳していて、感心したことがある。ビジネスのあり方が近未来にどう変わるか、さんざん預言した後で、彼はこう書いていた。「しかし未来の正確な予測は、本質的に不可能である。なぜなら未来には未来の言語があり、現在には現在の言語しかないからだ。現在の言語で未来を語ること自体が、実は矛盾なのである」 本誌「フォーサイト」が創刊十年を記念して出した別冊『次の10年に何が起こるか』は、その矛盾に挑戦した。二〇一〇年に世界と日本はどうなるか、八十問八十答でズバリ答え、その理由を述べている。「日本国憲法は改正されるか? YES70%」「アメリカ経済の一人勝ちは持続するか? YES20%」といった具合である。 それとは別に、中国の政治家も、しばしば未来について語る。いま切り抜きが見つからないが、李鵬前首相はたしか外遊中に「あと二十年もすれば、日本なんか存在するかどうか分らんよ」と放言したそうだ。 刺戟的な預言だが、トフラーの厳しい内省に照らして見ると、未来予測にしては言語が現在的すぎる。李鵬氏は単に現在の言葉で、いまの中国首脳部の日本観を語ったにすぎないと思う。預言より、むしろ悪態である。

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