見直される「ゲームのルール」

執筆者:梅田望夫2000年10月号

 新しい事業を始めるに至ったいきさつを四回にわたって書いている間に、暑かった夏が過ぎ、シリコンバレーも秋めいてきた。 今シリコンバレーは「厳しい試練」の真っ只中にある。四月のネットバブル崩壊から既に半年が過ぎようとしているが、この苦境をどのような復元力で乗り越えていけるのか、シリコンバレーの真価はその一点において問われている。 現在の試練は、九五年から九九年までの五年間を支配してきた「ゲームのルール」にかなり大きな誤りがあったことに起因している。 フロンティアにおける「ゲームのルール」というのは、時代の潮流を読み込んで同時代的に作られるので、ルールというよりも仮説という方が正確かもしれない。だからこそ、小さな誤りならば計算済みのリスクとして吸収できる巧みな仕組みがシリコンバレーには用意されてきた。しかしその誤りが構造的だと、さすがのリスク吸収システムもお手上げとなる。そんな風にしてネットバブルが崩壊した。 突き詰めていくと、この五年間における最大の誤りは、「才能に対する過信に基づいてゲームのルールが用意された」ということに尽きるのではないかと思う。「売上げがわずか、しかも赤字、それでも事業プランが素晴らしければ公開して資金調達できる」というルールや、「さまざまなものを無料化してでも顧客を獲得しさえすれば、カテゴリーごとの寡占が生れて、利益は必ず後からついてくる」というルールは、「先送りした問題は資金を投入しさえすれば必ずや解決される」という楽観によって支えられてきた。

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