中小企業対策をメインに据えた昨年秋の国会は「中小企業国会」と呼ばれ、中小企業基本法が三十六年ぶりに抜本改正されるなどの動きがあった。この時、通産政務次官を務めていたのが、自民党の茂木敏充氏である。折しも、政府委員制度が廃止され、政務次官の役割が拡大した直後であり、茂木氏は通産大臣と共に答弁に立つ日々を送った。「忙しかったですが、自分なりに達成感がありましたね」とは、振り返っての氏の感想だ。
 茂木氏は一九五五年生まれ。東京大学経済学部卒業後、丸紅勤務を経てアメリカのハーバード大学ケネディスクールに留学、政治学を専攻した。帰国後は読売新聞政治部記者、マッキンゼーでコンサルタントを務めた後、一九九三年に日本新党から初出馬し、初当選。日本新党の解体に伴い、自民党に入党し、副幹事長などを歴任した。現在は党広報局長、国会対策副委員長等を務める。また、著書も多い。
 政治家転身までの多彩な経歴については、「今はIT革命を始め、経済が大きく転換していく時代。IT、バイオ、環境問題などの新しい動きを捉え、政策に取り入れることが必要ですが、生きた経済、ビジネスを実際に経験できたのはいい体験でした」と語る。
「今までは官僚や秘書を経て政治家になる場合が多かった。でも、欧米では複数のビジネスを経て政界に転じるのは当然。私の経歴も今は珍しいようですが、今後は当たり前になるでしょうし、またそうなるべきだと思います」
 政治を志したのは、「単に人に物を伝えるのではなく、自ら時代を動かすことに携わりたいと思った」のが理由というが、議員以外の立場での立法活動の限界を感じたことも大きかったようだ。
「留学中にビル・ブラッドレー議員の法案作りを手伝ったことがありますが、アメリカでは政治家は議員スタッフと共同作業で法律を作るのが一般的で、どんな法案を作ったかが議員の評価になる。一方、日本の場合、法案は内閣提出のものがほとんど。過去五年間で内閣提出法案が八六・五%も占めますが、議員立法を少なくとも半数にする努力をする必要があると思う。立法府のあり方を国会議員各人が考え直さないと。ただ、議員一人で立法できるテーマもありますが、多くの省庁に絡む問題については、形は内閣提出でも政治がリーダーシップを取って関連省庁を巻き込む必要があると思います」
 現在のテーマは、最新著『勝者の選択』でも多くの頁を割いたIT問題だ。
「徹底した規制緩和を進め、皆が安価な料金でIT革命のメリットを享受できる体制を作る必要があります。例えば、インターネット取引でも最終的には書面交付義務があるのですが、これを全廃する一括法なども、関連省庁と連携して進めています」
 日本の現状に関しては、「八〇年代から九〇年代にかけて改革をさぼったと思います」と分析する。
「一九八〇年に自動車生産で日本に抜かれ、衝撃を受けたアメリカは徹底的に議論して規制緩和、構造改革を進めた。ベンチャー育成のための税制措置や、公的機関の持つ技術を民間に移転する仕組みなどを設け、日本を抜き返すまでに十五年かかりました。日本は技術移転関連法案、ベンチャー育成税制も今進めているところで、成果が出るまでに五年くらいかかる。今後リーディング産業になっていくIT、バイオ分野については、今すぐ対策を立てる必要があると思います」
 現在の政治状況についても、「世代交代は必要ですが、改革は単に選挙制度を変えるとか、永田町の内側で終わらせちゃいけない。政権枠組みがどうこうという以前に、国民だって明るい将来像を提示し、経済構造の改革を実行できる体制を必要としているのだと思う」と、あくまで政策立案・実現にこだわる見方をする茂木氏。目指すは「自立した政治家」なのだという。
「政治家だけじゃなく、あらゆる分野において日本で一番欠けているのが、個々人の自立ということだと思います。省庁と業界のもたれ合いがいい例。個々が自立した中で、互いに足りない部分を共同作業で補完していく、そんな社会を作っていきたいですね」

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