「勝者なき米大統領選」の深層

執筆者:2000年11月号

もはや大統領職はアメリカ国民にとって重要ではない[ワシントン発]十一月七日の大統領選投票日、アメリカの有権者はたしかに声をあげた。だが、その声が何を語ったのか、あるいは意味するところは何であったのか、未だ釈然としない。 勝者の決定が遅れるにつれ、首都ワシントンでは政治的な駆け引きが激しさを増している。だが対照的に、多くのアメリカ人は平静を保っている。これは、有権者自身が自国の進むべき方向について、はっきりした考えをもっていないことの反映ともいえる。 大統領選が史上稀にみる大接戦だったことから、アメリカが分裂していると見るのは早計だ。今は一九六八年とは違う。人種問題やベトナム戦争のような、世論を二分する争点はない。むしろ今回の接戦は、アメリカの現況があまりに良いことに起因するものだ。選挙で明らかになったのは、アメリカ人が現状に非常に満足しているという事実だ。人々は、かつてない繁栄と平和の時代に満足し、それゆえに政府の役割に無関心になっているのだ。 投票および出口調査が示した有権者の声は、矛盾に満ちたものだった。彼らは、総論ではブッシュの「小さな政府」を好ましいと思う一方、各論ではゴアの「進歩的アクティビズム」を支持した。「小さい政府」に賛同し、問題の解決は市場に任せる姿勢を示す一方で、大企業と金持ちの力を削ごうというゴアの訴えにも共感を覚えたのだ。経済の最優先事項が何であるかについては、社会保障の充実なのか、減税なのか、あるいは財政赤字の解消なのか、有権者の声はバラバラだった。五六%が現状維持を好む一方で、四一%が新たなスタートを望んだ。

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