北朝鮮の微笑に騙されるな

執筆者:徳岡孝夫2000年11月号

 一同が平壌からアンカレジに出たところで、米国務省高官が同行記者団に例の英語教師を送ってくれという話について詳しく話したという。 午後の会談の席で、金正日は突然「この通訳の英語力はどうですか?」と尋ねた。下手に答えれば通訳に迷惑がかかる。オルブライト長官が答えかねていると、金正日は言った。「午前中の通訳は、ダメなので外しました。父・金日成とカーター元大統領の会見(六年前)を通訳した男ですが、そのあと勉強していないから役に立ちません」 それに続いて英語教師(複数)を派遣してもらえないかという話になり、金正日は「コリア系アメリカ人でも構いませんよ」と言ったそうだ。 弾道ミサイルの開発・輸出を止めるからウチ専用の人工衛星を打ち上げろという厚かましい話より、こっちの方がずっと面白い。金正日は、マスゲームを見せた競技場で「ロケット発射は一九九八年が最初で最後になるでしょう」と言ったというが、そんな「示唆」はアテにならない。英語教師の話は具体的で、嘘いつわりがない。 長らく一言も発しなかった男が、この三カ月ほどの間に江沢民と金大中とプーチンを総ナメにした。その間にシナ語やロシア語を教えてくれと頼んだとは聞かなかった。「将軍様」と全国民から崇められる男にも、英語コンプレックスはあるらしい。

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