戦略なき日本の「サハリン沖開発」

執筆者:五十嵐卓2000年11月号

中国、ロシアがプロジェクトを本格化する一方で――「サハリンからの天然ガスはこのまま行けば二〇一〇年以降でしょう」。あるガス業界関係者はこう指摘する。サハリン島東岸沖で進む天然ガスの開発プロジェクトの対日供給の開始時期だ。日本に近い巨大エネルギー資源として世界の関心をひき、エクソンモービル、シェルなどメジャーと日本のエネルギー業界、大手商社が共同で進めるサハリン・プロジェクトは「日本のエネルギー需給構造を大きく塗り替える潜在力を持つ」との期待を集める。 特に昨年来の原油価格高騰、アラビア石油の対サウジアラビア権益失効でサハリン・プロジェクトの価値は明らかに高まったはずだが、国内ではエネルギー業界での盛り上がりに欠け、サハリンからの日本向けパイプラインの検討すら先延ばしする空気が濃い。背景にあるのは「日の丸油田」開発以外にエネルギー戦略を描けない政府と、規制緩和の波にもまれ発想が縮小均衡に陥っているエネルギー業界の姿だ。 サハリンのエネルギー開発プロジェクトの端緒は第一次石油危機直後の七〇年代半ばに遡る。七四年に日本側主体としてサハリン石油開発協力(SODECO)が設立され、七五年には「サハリン大陸棚石油・ガス探鉱日ソ基本協定」が締結された。日本にとって「脱中東政策の切り札」として期待されたが、旧ソ連の政治変動、原油の供給過剰と価格の低迷などが重なり、プロジェクトはわずかな試掘作業を除き二十年以上進展しなかった。しかし、九〇年代に入ってロシア側の姿勢変化などでSODECO以外の鉱区入札が始まり、一気に活性化、日本側も累積債務で身動きのとれなくなっていたSODECOの権益を新会社(新SODECO)に移すなど新体制を構築した。

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