米大統領選と江戸城大奥

執筆者:徳岡孝夫2000年12月号

 一度だけアメリカ大統領選挙の投票現場を見たことがある。場所はニューヨーク州北部の大学町で、ケネディvs.ニクソンのときだから古い話である。 小学校(だったと思う)の廊下の隅に、電話交換台を少し小さくしたような投票機があり、半円形に張り出したカーテンが、左右に開いている。投票する人が入ると、その背後でカーテンが自動的に閉じる。すなわち秘密投票である。 投票機には、小さいレバーが横二列に並んでいる。一つ一つのレバーの上に大統領・副大統領、連邦上院議員、下院議員から州上下両院議員、町の郵政長官までの役職名が書いてある。二列のレバーの左端には民主、共和とある。民主党または共和党のどちらかのレバーを右に捻ると、その列のレバーが全部、一斉に右に曲がる。カーテンが開く。一字も書く必要ない。投票結果は投票機内に記録される。 居合わせた選管の人は一人か二人で、立会人なんていない。「大統領は共和党に入れるが町の郵政長官は民主党にしたい場合はどうなりますか」と訊いてみた。選管の人は「この郡はストレート・チケット(党公認候補の一括選択方式)です」と答えた。 寮に帰ってルームメートに「民主か共和以外の候補者に入れたい人はどうする?」と聞くと「泡沫候補はどうせ勝てないから数えない。数える郡もあるけどね」と言った。アメリカの大統領は、何人もの候補者の中から一人をelectするのではなく二者択一、二人のどちらかをchooseするだけなのだと初めて知った。

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