IT(情報通信技術)が、人々のさまざまな可能性を広げるものであることに異論を挟む人は少ないだろう。それは健常者だけでなく、身体の不自由な人たちにとっても同じだ。だが、ITと身体の不自由な人々の関係を考えていくと、そこにはITがもたらす社会変容と、それを受け入れるための素地をいかに作っていくかなどといった問題が見えてくる。「たしかにテクノロジーは障害を持つ人を虜にしてしまうところがあるし、そうした楽観論を否定する気もありませんが、道具と人のインターフェイスをめぐる突っ込んだ考察が必要なのではないでしょうか」 石川准静岡県立大学教授は、こう語る。石川は、視覚障害者がパソコンやインターネットを利用するためのさまざまなコンピュータ・プログラムを開発してきた人物である。そのプログラムは視覚障害者用の標準となり、二〇〇〇年度には情報化促進貢献で通産大臣表彰を受けた。自身も視覚障害者で、一九七七年には全盲の初の東大合格者として話題になった。本業は、アイデンティティ論や障害論を研究する社会学者で、特に障害学では、先鋭的な研究で評価が高い。 デジタル・デバイドという言葉は、もっぱらサラリーマンがパソコンを使えないことを自嘲気味に話すときに使われるが、デジタル・デバイドとの宿命的な戦いを続ける人たちには自嘲では済まされない言葉である。石川は、視覚障害者に限ったものではあるが、さまざまなアイデアを駆使して活路を見いだそうとしてきた。いわば「情報バリアフリー」に向けた開拓者の一人だ。

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