日本とロシアの平和条約交渉と北方領土問題をめぐり、外務省内のロシアン・スクール同士の争いが熾烈を極めている。先月三十日にモスクワで行なわれた東郷和彦欧亜局長(四十三年)とロシュコフ外務次官との事務折衝で、一九五六年の日ソ共同宣言で平和条約締結後の歯舞、色丹両島の引き渡しを約束した規定について両国の解釈に大きな齟齬があることが判明した。ロシア側は今回改めて「二島返還で領土問題を最終決着させるという規定だった」との解釈に立っていることを伝えた。日本側の「残る国後、択捉両島の帰属をめぐる交渉も継続することが合意されている」との解釈を全否定したのだ。 この東郷・ロシュコフ会談直後、省内の反東郷派から「東郷は自民党の鈴木宗男総務局長をバックに『二島先行返還』という小細工を弄したから、ロシア側に足元をすくわれた」と、手厳しい批判が続出。一部では新年早々に西田恒夫ロサンゼルス総領事(四十五年)との交替説が取沙汰され始めた。 が、事はそう簡単ではない。東郷局長の直属の部下である小寺次郎ロシア課長(五十二年)、元ロシア課長の原田親仁外務参事官(四十九年)ら「四島一括返還」を主張する“原理派”の後盾とされていた丹波實駐ロシア大使(三十七年)が北方領土問題解決への情熱を失い、退官後の就職先探しに関心が移ってしまったというのだ。内閣改造に伴う自民党人事で鈴木総務局長の留任が決まり、東郷派はいま森喜朗首相の一月訪ロ実現による巻き返しを図っている。

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