「私の祖父は一九一八年、大学で学ぼうと決意し、黒人に門戸を開いたアラバマ州のスティルマン大学を探して入学した。綿花を売って学費を稼ぎ、牧師になって奨学金を得た。それ以来、ライス家では全員が大学で学んだ」 昨年七月フィラデルフィアで開かれた共和党大会で、コンドリーザ・ライス米大統領補佐官(四六=国家安全保障担当)の演説はひときわ異彩を放った。大多数の黒人が福祉と庇護を求めて「大きな政府」の民主党を支持する中、ライス家が機会と競争を重視する共和党を選んだ理由を告白したからだ。 他人の発言はめったに引用しないことで知られる著名な保守派評論家、ジョージ・ウィルは、ワシントン・ポスト紙のコラムでライス演説を長々と紹介し、「共和党はいまや、パウエル(国務長官)とライスの党だ」と絶賛した。二人を前面に出し、ブッシュ大統領の「思いやりのある保守主義」をアピールした党大会は、白人政党の共和党が弱者と少数派に切り込んだ点で、歴史的意味があったといえる。 ただ、ブッシュ外交を担うパウエルとライスは同じ黒人でも政見はかなり異なる。妊娠中絶や少数派優遇措置を支持する穏健派のパウエルに対し、ライスは保守的で、「米国民が銃で自衛する権利」を擁護する。外交面でも、パウエルが力の行使に消極的なのに対し、ライスは勢力均衡論に立脚し、国益のためなら軍事力行使も厭わない。「黒人で女性であることはあなたにとって長所か短所か」と、あるインタビューで聞かれたライスは「そんな問題を考えることに時間を費やしたことはなかった」と不快感を示した。ピアノやスケートはプロ級。才色兼備で弁舌能力や経営手腕も持つマルチタレントの国際政治学者にとって、コンプレックスは無縁なのだ。

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