ハングルでは実力者を「実勢」(シルセ)というが、北朝鮮の「実勢中の実勢」の軍人が李勇哲だ。 公式行事で主席壇などに並ぶことはあまりない「陰の人物」だが、金永春総参謀長や金鎰チョル人民武力相より上の権限を持つとの見方もある。 その実力のほどは現在の職責からも推し量ることができる。労働党の軍事問題を統括する党中央軍事委員の一人でもあり、党の人事を管轄する党組織指導部の五人の第一副部長の一人(軍事部門担当)でもある。つまり「軍」と「党」の要職を兼務する実力者なのである。李第一副部長が北朝鮮の公式報道に登場するケースはほとんど金正日総書記の現地指導への同行に関するものであることが示すように、金総書記の厚い信頼を受ける側近でもある。 彼の実力者ぶりが外部に知れた契機は、米国のペリー北朝鮮政策調整官(当時、元国防長官)が一九九九年五月に訪朝した際だった。全般的な問題に関するペリー調整官のカウンターパートは米朝核協議を行なった姜錫柱第一外務次官だった。ミサイル問題など米朝間の重要軍事問題に関しては李第一副部長がペリー調整官のカウンターパートとして登場し、キーパーソンぶりを示した。金正日総書記は昨年の米朝協議に際して軍幹部を米国に派遣すると言明していた。結果的には趙明禄国防委第一副委員長が訪米したが、一部では李第一副部長の訪米の可能性が取りざたされた。

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