中央政界に蔓延する停滞感とは対照的に、地方行政には覇気に富んだ知事の台頭が目立ち始めた。石原慎太郎都知事、北川正恭三重県知事、浅野史郎宮城県知事、橋本大二郎高知県知事など、直接選挙で選ばれたという強みを生かしつつ、独自の存在感を放つ知事の活躍に注目が集まっている。 しかし、これらの知事以上に、昨年十月に長野県知事となった田中康夫氏の登場は、日本政治史の観点から見て、インパクトが大きかったと言える。なぜならば、田中氏は単に無党派どころか、政治、行政の経験が全くない、いわば「素人」だったからだ。橋本知事も民間出身だが、父親は代議士、兄は元首相という血筋を考えると、田中知事の「異端性」は明らかだろう。 就任三カ月で、知事としての業績評価を下すのは時機尚早だが、田中知事の行政手法は、意外なほどオーソドックスである。その情報公開の姿勢、住民参加方式の政策決定プロセスの導入などは、欧米の先進民主主義国では、いまや「常識」といえる手法だ。知事室を県庁の三階から一階に移し、ガラス張りにするといった派手なパフォーマンスや奇抜なファッションにばかり目を奪われていると、田中県政の本質を捉えそこなうことになろう。

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