弁護士業界には二つの世界があった。乱暴に言えば「カネ」か「名誉」か。前者の代表格はビジネス弁護士と呼ばれ、企業の顧問を多く務めて数億円の年収を得る者も少なくない。一方、後者は人権弁護士と呼ばれ、権力を敵に弱者を助けるという使命感を拠りどころとする。両者はこれまで相容れず、お互いを敬して遠ざけてきた。 二つの世界の併存は、弁護士の数が圧倒的に少なく競争がない特権的体制の上に成り立っていた。制度に守られればこそ、理念なくカネ儲けに邁進したり、ただ「人権」と叫ぶだけの堕落した弁護士でも許された。だが、「司法改革」で法曹人口が大幅に増えれば淘汰の原理が働き、それぞれの世界に引きこもることも不可能になる。 久保利英明弁護士(五六)は、ビジネス弁護士としての知名度は群を抜く。だが、久保利氏の成功は経済的成功だけを追い求めてきた結果ではない。「自分の原点だ」というスモン薬害訴訟の際、裁判所の決定を受けて仮執行に出向いた製薬会社の徹底した非協力ぶりに、「企業」という組織が「人」を虐げる怖さをみた。「ビジネス弁護士として企業の役にたたなければ、企業は弁護士の言うことなど聞かない」。若くしてそう確信した。

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