手練の国際ビジネスマンでも、冠婚葬祭となるとちょっと勝手が違う。 取引先の英国の大百貨店会長がこちらの招待で訪日した折り、自動車事故で死去するという出来事があった。「会長の死骸はドライ・アイスに漬けてそのまま運んでもらわなきゃいけませんな」と支店の石倉総務課長がつい事務的に言ったところ、英国人のリチャード・ヒューム支店次長が、それを聞きとがめた。「ミスタ・イシクラ、死骸って言葉は使っちゃいけない。絶対にいけない。ご遺体、そう呼ばなくちゃならん。いいですか。ご遺体ですよ」 リメインズがとっさに出てくるような気の利いた英語教育を日本のビジネス戦士たちは受けていない。 もっと大きな問題は、それこそ彼のリメインズを安置している棺だった。〈日本人には清浄そのもの、死者を悼むにまことにふさわしいと映る白木の棺が、イギリス人たちにはぺらぺらのベニヤ板を貼り合せた、おそるべき安物、死者へのこのうえない侮蔑と受け取られたんです〉 香典をめぐっては、次のようなやりとりと相成る。「こちらにおなじような習慣があるかどうか知らないが、死者に敬意を表するために金を持参する習慣が日本にはあるんです」「金なんぞ恵んでやって乞食扱いすることがどうして敬意を表することになるのかね。ミスタ・イシクラ、亡くなったのはイギリス屈指の大百貨店の会長なんだ」

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