成熟したナショナリズムを

執筆者:伊藤幸人2001年3月号

 先頃、英『エコノミスト』が「日本では、かつての誇るべき肯定的なナショナリズムに代わって、防御的で否定的なナショナリズムが新たに台頭する兆しがある」と書き、注目を集めた。実際、政治の混迷は深く、経済の退潮は著しく、国民の間にやり場のないフラストレーションが鬱積しているだけに、排外的なナショナリズムが過熱する危険が高まっている。その最中、危険を外から煽るような事件が立てつづけに起こった。 まずは、日本の漁業実習船「えひめ丸」が米原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突され、沈没した事件だ。アメリカ側の対応の遅れもあり、日本から謝罪要求が続いたが、米ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、リチャード・コーエン氏が「我々は十分に日本に謝った」と題したコラムで「日本からの謝罪要求は過度だ。日本自身が従軍慰安婦問題や南京大虐殺について十分な謝罪をしておらず、日本の態度は偽善的だ」と主張。日本では当然、嫌米的反応が起きた。 また、「新しい歴史教科書をつくる会」が主導して執筆にあたった中学歴史教科書に対し、中国と韓国が「植民地支配を正当化している」と強く批判。中国政府は外交ルートを通じ「検定不合格」を求める意向を日本政府に伝え、韓国国会では与野党一致で「是正要求決議」を採択した。それに対し、日本の一部では「内政干渉に屈するべきではない」と反発が強まっている。

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