中国への返還後も香港当局に残り、董建華行政長官に次ぐ存在だった陳方安生政務官が、四月末で辞任する。董長官の任期(五年間)が切れる二〇〇二年六月に合わせた退任予定を一年二カ月繰り上げて引退を表明したのだ。親英派の陳氏と親中派の董長官との確執は幾度も伝えられていたが、董氏の行政長官選再出馬がウワサされる中で、北京のお先棒を担ぐような“董再選選対委員長”にされるのはかなわないと感じたのが早期辞任表明の真相かもしれない。 記者会見の席上、陳政務官は董長官との不仲説を必死で否定して見せた。しかし、その心中には董氏への“抗議”が秘められていた。中国の銭其シン副首相は、昨秋に北京入りした陳氏に「もっと董長官への支持を盛り上げて欲しい」と異例とも言える“イエローカード”を突き付けた。面子を失った陳氏が辞任を決意したきっかけになったとも言われている。 返還後の香港は、アジア全域に吹き荒れた金融危機に巻き込まれただけでなく、様々な政治的風波に晒された。董長官は大陸中国人の香港への居住権問題では北京に司法判断を仰ぎ、香港司法権独立への自殺的行為だと民主派の批判を受けた。台湾独立派の陳水扁総統が誕生した際には、香港実業界は陳総統に肩入れする台湾企業との取引を控えるよう求める北京の圧力に直面した。中国内では非合法組織の「法輪功」が、香港では合法的というねじれ現象もある。

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