「九〇年代は日本にとって失われた一〇年といわれますが、私はあえて、育まれた一〇年だと考えたいのです。市民社会の基本的な倫理、多様性のあり方、公平で公正な社会の追求など深層海流ができつつあるのだ、と」 朝日生命保険社会貢献室長の西口徹は、自らの言葉にちょっと照れながらもこう言い切った。 たしかに世の中は変わり始めている。長野県や千葉県の知事選挙を見ても変化を導いたのは市井の人々だ。彼らは政党人であるわけでもなく、また今後も政治運動に力を注ぐような人々でもない。だが、そこに示されたものは、構造改革への力強い意志であった。その意志は、投資活動においても具体的な姿を見せ始めている。 西口は、日本で初めての社会貢献ファンド「あすのはね」を誕生させた中心的な人物である。社会貢献ファンドの説明の前に、社会責任投資(SRI=Socially Responsible Investment)について書き留めておくべきだろう。社会責任投資とは、一九二〇年代にアメリカの教会で始まった投資行動であるといわれる。教会が集めた資金を運用する際に、キリスト教の倫理観に反するギャンブル産業などには投資しないとするもので、戦後は、ベトナム戦争時の軍需産業、アパルトヘイトの南アフリカへの投資企業などに資金を投じないなどの活動となった。

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