対米外交のジレンマに直面した中国

執筆者:伊藤正2001年5月号

米中の思惑が交錯する台湾問題。そこに触れた米中軍用機接触事件を中国は表向き冷静に処理した。だがいずれ、軍備増強を続ける中国と米国の対立が東アジアで深刻化する。「その時」に備えた回答を日本は持っているのだろうか。[北京発]四月一日の日曜日。その朝、江沢民国家主席ら中国共産党の中枢である七人の政治局常務委員は、そろって北京市北部のオリンピック公園に行き、小学生らと一緒に植樹活動に参加していた。そこに、南シナ海上空での米偵察機EP-3と中国戦闘機F8の接触事件の一報が入った。事件発生から二時間近くたった午前十一時前だったという。 植樹活動は二〇〇八年五輪の北京招致実現のために行う緑化キャンペーンの一環。二〇〇〇年五輪を二票差でシドニーにさらわれたショックから、二〇〇四年五輪への立候補を断念した中国にとって、今度は国家の威信がかかり、絶対に負けられない。指導部総掛かりで宣伝活動に参加したが、その最中に緊急事態が発生したのだ。 内部事情に通じた中国筋によれば、同日午後、政治局会議が招集され、遅浩田国防相の状況報告に基づき、対応策が検討された。国防相の報告は、「非は挙げて米側にある」というものだったが、政治局会議では事を大きくしない方針が決まったという。

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