ロシア「独占企業体再編」の裏側

執筆者:桜井薫2001年6月号

利権構造は破壊されるのか、闇のまま引き継がれるのか[モスクワ発]五月三十日、モスクワの証券ディーラーたちは終日、あるロシア企業の株価動向に翻弄された。電力、鉄道と並ぶ三大独占企業体のひとつで、世界最大の天然ガス会社「ガスプロム」である。商いの材料は社長人事。午後になって「社長交代」の情報が伝わると一気に急騰し、結局、ガスプロム株は一日で六%も上昇した。 この日開かれたガスプロム取締役会の結果は、証券ディーラーのみならず、ロシア政財界全体に激震が走るような内容だった。「天然ガス業界の帝王」と称されたレム・ビャヒレフ社長(六六)の退任が決まり、事前の下馬評にはまったく浮上していなかった三十九歳のアレクセイ・ミレル・エネルギー省次官が後任の社長に選出されたからだ。 ビャヒレフ氏は一九九二年、前社長だったビクトル・チェルノムイルジン氏の入閣に伴ってガスプロムの社長となり、以来、約九年間にわたって「ガスプロム帝国」を一手に率いてきた。「帝国」と呼ばれるのは、決して誇張ではない。ガスプロムは世界の天然ガス埋蔵量の約四分の一を保有。毎年、ロシアの国内総生産(GDP)の一〇%近くを稼ぎ出し、政府の予算歳入の二五%を拠出しているからだ。

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