戦争に勝る国際理解はない

執筆者:徳岡孝夫2001年6月号

 ウォルト・ディズニー社の奥まった一室で、誰かが「真珠湾の六十周年だ。これ、いこ!」と叫んだのだろう。例のブロックバスターというやつで、映画「パール・ハーバー」は物凄い制作費をかけて作られ、まずアメリカで封切られた。観客の出足好調だという。日本にもまもなく来る。 現地・真珠湾では、停泊中の空母の飛行甲板に大スクリーンを設け、約二千人を招いて見せたそうだ。協力した米海軍の「民間人」へのサービス精神。真珠湾のすぐ外では、「民間人」(その実は政治家や米海軍に好意的な金満家)を喜ばせるため、原潜グリーンビルは海面をロクに調べもせず急速浮上した。九人の遺体が、まだ海底にあるのに、彼らは有色人種の悲劇をサラリと忘れてしまったようである。 日本の週刊誌によると、荒唐無稽な映画だそうだ。帝国海軍にとって最高の軍機だった作戦の演習が屋外のプールで行われ、フンドシ一丁の水兵が米艦の模型を浮かべ「これがアリゾナです」と報告したりする。近くで子供が凧揚げしているというから、目も当てられない。真珠湾攻撃は帝国海軍部内にも反対論が強く、秘中の秘だったのだ。 映画会社には一億三千万ドルを遣い切る知恵者はいても、日本語が読めて日本側資料を調べる能力ある者は一人もいないらしい。日本への完全な無理解。「あんな黄色い近眼の猿に真珠湾を叩けるはずがない」と見くびって漫然と日曜日の朝を迎えた米太平洋艦隊司令長官の時代から、ちっとも進歩していない。

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