北海道函館市郊外。津軽海峡を見下ろす小高い山の上に社会福祉法人函館カリタスの園「旭ヶ岡の家」がある。定員八三人の特別養護老人ホーム「旭ヶ岡の家」、同じく二一人の特定有料老人ホーム「旭ヶ岡の家レジダント」、在宅ケアセンター「ベレル旭ヶ岡の家」、デイサービスセンターなどで構成される、高齢者を対象とした総合施設である。 最初の施設である特別養護老人ホームができてから、この五月で二四年が過ぎた。この間、旭ヶ岡の家は、日本における老人ホスピス運動で数々の先駆的な役割を果たしてきた。施設長としてこの運動をリードしてきたのがフィリップ・グロード神父である。 取材に訪れた日は、家族会の集まりがあった日だった。十数人の女性たちが楽しそうにお喋りをしながらバザーの準備をしていた。グロード神父は、「この人はお父さん、こちらの人はお母さんを、この“家”で亡くしました」と紹介してくれる。参加している人も、神父の「この家」という言葉に頷いている。不思議な感慨にとらわれた。 親を施設に預けるにはさまざまな事情があるだろう。しかし、そこに共通しているのは、自らの手では世話をできなかったという後悔にも似た気持ちなのではないかと考えていた。ところが家族会の人たちは、そのような気持ちを感じさせない。現在、家族会のメンバーは約一三〇人。「皆、親戚よ」と笑わせるが、すでに肉親を亡くした人でも家族会を脱会せず、入所中の肉親を抱える家族と共にボランティア活動に取り組んでいる人が多い。

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