“クラビー”な人脈ネットワーク

執筆者:梅田望夫2001年7月号

 確かに米国IT革命は失速した。そして世界中のIT市場に縮小の連鎖を引き起こしている。ナスダックはまだ底が見えず、新規株式公開(IPO)の窓も閉じたまま。多くの人が既にシリコンバレーを去りつつある。 でもそんな今だからこそ強く思う。やはりここは「起業の聖地」なのだと。 キャンディスという名の女性起業家の話をしよう。 四十代後半。起業の経験はない。彼女は、シリコンバレーのルーツとも言うべき半導体メーカー、フェアチャイルド社で技術者としてキャリアをスタート。以来、半導体とディスプレイ技術に関わる数多くの企業で経験を積み、二十五年間、技術を磨いてきた。 シリコンバレーでは、専門性が高い「狭くて深い技術領域」のプロたちの「目に見えぬ、やや排他的なコミュニティ」を形容するときに「クラビー(Clubby:クラブ的)」という言葉をよく使うが、現代情報技術(IT)産業を支える膨大な技術群一つ一つの専門領域にクラビーな人脈ネットワークが、企業を超えて存在している。企業内での連帯が強く、三十代後半で現役を退き管理職への道を歩むことの多い日本の技術者コミュニティからは想像のつきにくい世界が広がっている。 時代の要請に従い、注目を集める技術は移り変わる。どんなに技術が高度でも、ある技術が「旬」を迎えていないときは、その技術の周辺で「起業の興奮」は生まれない。しかしクラブのメンバーたちは、そんな冬の時代にも、専門性を大切に育み、大企業や研究所での仕事を淡々とこなしつつ、時が来るのを待っている。

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