糸瀬さんのこと

執筆者:幸田真音2001年7月号

 一度もお会いしたことはないけれど、宮城大学教授の糸瀬茂さんは私にとって気になる存在だった。共に外資系金融機関出身で年齢もほぼ一緒、ほとんど同じころ社会に向けてメッセージを発信するようになったこともあって、一方的に仲間意識を持っていた。 食道がんを患っておられることを公表されてからは、私自身が病気を理由にマーケットを去ったこともあって、とても人ごとに思えなかった。この六月に四十七歳という若さで亡くなったと聞いて、残念でならない。 今回取り上げた『日本経済に起きている本当のこと』(日本経済新聞社)は、糸瀬さんが一九九九年十月から二〇〇〇年八月までウェブ上で連載していたコラムを集めたもの。「一年以上も前に書かれた経済コラムなんて読む価値あるの?」と、早合点するなかれ。どこを読んでも記述が全く古びていないどころか、ますますリアリティが増しているのだ。 例えば、長銀国有化に触れて「借り手責任」を問うた九九年十月十八日付のコラム。「淘汰されるべき銀行は淘汰され、淘汰されるべき企業は淘汰されるべきである。野口悠紀雄氏の言葉を借りれば、『(そうした)企業には生存権はない』のである。ただし、人には生存権がある。政府が救済すべきは人であり企業ではない。百歩譲って、もし『その企業を倒産させると社会的コストが甚大である』というケースが本当にあるのであれば、その企業の救済は、『国民に対する明確な説明責任』を果たした上で、(銀行救済を通じてではなく)直接保護すればよい」

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