なぜ、かくも豪華な住居が必要なのか

執筆者:斎藤勉2001年8月号

 モスクワには今、寿司バーが百店前後もできたが、最もウマいのは日本大使館の幹部連がロシア外務省のカウンターパートや各国外交官を公邸に招いて振る舞う寿司だと、もっぱらの評判だ。日本から連れてきたお抱え料理人が作る寿司は余程美味らしく、連夜の招待客の中には家族への土産にも寿司を所望するロシア人が多いとか。涙ぐましいまでのこの外交努力はそれなりに評価はできよう。だが、某幹部などは夜の宴に備えてほぼ毎夕、日の丸の旗を立てた黒塗り公用車で一流ホテルのプールに通い、モスクワ日本人会の一部で顰蹙を買っている。 対露外交最前線でのこの寿司攻勢の成果のほどは、北方領土問題で「二島先行返還論」なる妖怪が幅をきかせ、サンマ漁の韓国船などに領土周辺海域を堂々と闊歩されている……という事実を挙げるだけで十分だろう。日本人報道陣の間で「ロシア人外交官への寿司の大盤振る舞いは結局、公費の膨大な無駄遣いだったのではないか」との疑義の声が上がっているのも無理はなかろう。「大盤振る舞い」といえば、これら大使館幹部の下で大使館員に対しても昨年四月、日本国民のあずかり知らないうちに大変な大盤振る舞いが行なわれていた。大使館員の住宅手当の上限が一律六〇%も上乗せされ、大学を出たての最も若い外交官(妻帯者の場合)でさえ四千八百八ドル(約五十八万円)、参事官や一等書記官級では約七十三万―八十四万円、公使級だとほぼ百万円にも一気に跳ね上がったのである。

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