「最もエネルギッシュに活動する駐日大使の一人」(外務省幹部)だったアイルランドのデクラン・オドノバン駐日大使(五二)が、十月初め、六年間の任期を終えて離任する。 来日までの十二年間、本国ダブリンの外務省と英国領のベルファストで、北アイルランド和平という生々しい問題に携わってきた大使は、日本では一転して文化交流と相互理解という地味だが大きなテーマに取り組んできた。なかでも在任中の大きな仕事は、紀宮さまの公式訪問だった。 日本の皇室とアイルランドは目立たないが、親密な関係を保持してきた。天皇、皇后はまだ皇太子、皇太子妃だった八五年にアイルランドを公式訪問され、このときヨーロッパの片隅にあるこの小国の美しい風土と素朴な人々に深い感銘を受けられた。特に美智子妃はアイルランドの音楽と文学に造詣が深く、この旅行の後、高校生だった紀宮さまにアイルランドの話をいろいろされたという。 美智子妃を通じ紀宮さまがアイルランドへの思いを深められたことは想像に難くない。昨年春、ある内輪の集まりで、紀宮さまは美智子妃に捧げて古いアイルランド民謡を歌われている。十七世紀、盲目のハープ奏者のカロランが作曲した「アイリーン・アルーン(愛しきアイリーン)」という曲で、招待客の一人は「大変お上手で、声がおきれいでした」と語っている。

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