イチローの強み

執筆者:野田浩司2001年9月号

「バットではなく、テニスラケットを持った打者に投げている」 これが、イチローと対戦したときに抱いた感覚だった。といってもチームメイト、機会は多くない。紅白戦でせいぜい年に一度がいいところ。記憶をたどってもイチローとの対戦は五、六回しかない。 キャンプでお互い調整中とはいえ、せっかくのチャンス、何とか抑えたいと思うのは当然だろう。普通なら、私の決め球のフォークボールでタイミングを外して打ち取ろうとするところだが、彼が相手ではそうはいかない。タイミングを外されてもイチローには関係ないのだ。 野球に詳しくない方のために説明すると、フォークというのは、打者の近くに来て急に落ちる球種だ。並みの打者なら、三振か内野ゴロになるケースでも、イチローのバットは逃さない。彼は、ボールを点や線で捉えていない。面で捉えるのだ。あたかもテニスラケットを手にしているかのごとく。 結局、打たれてもともとと、インコースのストレートで勝負に行ったものだ。 しかし、同じインコースのストレートでも、メジャーリーグの主戦級のストレートはものが違う。さらに、投手によっては何を考えているのか分からない不気味なやつもいて、いつぶつけられるかと恐怖心が湧くにちがいない。オリックスでの最後の納会で話したときも、インコース攻めにどう対処するかについて、相当考え込んでいるようだなと感じた。内野安打のことも話題になった。メジャーは天然芝の球場が多く、打球の勢いが殺されるので、私は内野安打が日本よりも増えるのではないかと言ったのだが、彼は、内野手の肩の強さが違い、そう簡単にはいかないと考えているようだった。

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