「江沢民の騙しのテクニック」

執筆者:名越健郎2001年9月号

「月が満ちたり欠けたりするように、人はめぐりあったり、別れたりする。悲しみもあれば、喜びもある」 中国の江沢民国家主席は8月10日付の米紙ニューヨーク・タイムズとの会見で、古代中国の漢詩を引用して米中関係を形容した。保養地の北戴河に同紙社長らを招き、1時間半に及んだこの会見は、ブッシュ政権に向けた和解のメッセージと受け取られている。それほど中国は、米国と敵対しながら、関係改善を必要とする理由があるのだ。 4月1日、中国戦闘機と接触して海南島に緊急着陸した米軍偵察機EP3を解体した中国の技術者が叫んだ。「なんということだ。すべての部品が中国製だった」 江沢民主席、ブッシュ米大統領、プーチン・ロシア大統領が三者会談を終え、車で会場を後にした。ブッシュ大統領の車は前方を右へ、プーチン大統領の車は左へ曲がった。 最後に江沢民主席が運転手に命じた。「方向指示機を左に出しながら、右へ曲がれ」 1989年の天安門事件後、急遽上海から呼ばれた江沢民は、当初の中継ぎという観測と裏腹に、在位12年というロングリリーフになった。卓越した政界遊泳術と駆け引き、それに騙しのテクニックが長期政権の秘訣だ。しかし、来年秋は第16回共産党大会。本人はトウ小平流の院政を狙っているとされるが、巨大な社会的変化の中で、前途は容易ではない。

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