アメリカ経済は深い霧の中へ

執筆者:川原吉史2001年9月号

急増する企業倒産、手詰まり感漂う金融政策、早くも懐疑の視線が集まる大型減税。終わりの見えない米国IT不況の現実を、鮮やかな切り口で分析する。[ニューヨーク発]今年七月二十日、米半導体製造装置メーカーのノベラス・システムズがこれまでにない仕組みのゼロクーポン転換社債(CB)を八億ドル発行した。発行後一年の間に債務不履行に陥ったら、同社の保有する米国債で投資家に償還する仕組みだ。いわば「米国債転換権付き社債」である。 主幹事証券会社のメリルリンチがこんな仕組みをひねり出したのには二つの理由がある。まずノベラスが格付けを取得していないことだ。CBの信用力を補完するためには市場に「担保」を差し出す必要があった。 もうひとつは投資家の便益。ここでいう投資家とは「ヘッジファンド」である。「価格変動のサヤ取りを狙うヘッジファンドにアピールするためには、信用リスクをゼロにする仕組みが必要」と市場関係者は解説する。 CBとヘッジファンドのつながりは密接だ。このところ新規に発行されるCBをせっせと購入しているのがヘッジファンドであることは米国市場の常識。ひとつの新発案件の七割をヘッジファンドが購入することも珍しくない。CBを買う一方で現物株を売る裁定取引のチャンスが広がるからだ。今や投資家としてヘッジファンドを取り込むことが起債の条件といっても過言ではない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。