彼らはこうして金融危機を遮断した

執筆者:川原吉史2001年10月号

彼は車を走らせていた。その日はいつもと全く光景が違った。双子ビルが黒煙を噴き上げていたのである……。“あの日”、未曾有のダメージを受けたニューヨークはなぜ市場崩壊のリスクを封じ込め得たのか。[ニューヨーク発]九月十一日朝。米大手資産運用会社、フィデュシアリー・トラストの最高技術責任者(CTO)のスティーブン・トールは、いつものように本社のあるマンハッタンの世界貿易センター(WTC)ビルに向けて車を走らせていた。が、その日はいつもと全く光景が違った。双子ビルの一棟のノースタワーがもうもうと黒煙を噴き上げていたのである。 すぐに代替オフィスを立ち上げなければ――。トールは車の中から契約している災害復旧センターに連絡をとるために電話した。「暗証番号をどうぞ」。気が動転して思い出せない。すぐにニュージャージー州郊外の自宅にとって返し、必要な書類を抱えてまた車を走らせた。目指すは同州にある緊急用バックアップ・サイト。契約していたコムディスコ社の施設だ。 トールが同サイトに着いたのは午前十時十五分。オフィスのあったサウスタワーが倒壊してから約二十五分後のことだ。最高経営責任者(CEO)のアン・タトロックは著名投資家、ウォーレン・バフェットのチャリティーの催しに出席するためにネブラスカ州オマハに滞在中。「非常事態」を宣言したトールは、たまたまニュージャージー州の顧客のところに向かっていて無事だった社長のビル・ヤンと従業員の安否確認やオフィスの立ち上げに奔走した。

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