戦争ではない これは犯罪

執筆者:徳岡孝夫2001年10月号

 アメリカは外科医のような手つきで、アフガニスタンへの攻撃を始めた。術前の血液検査、CTスキャン、負荷テスト、すべてやった。頭に布を巻いた髭ヅラの患者は、手術台の上。メスを入れるべき個所には、マジックでマークがしてある。まず皮膚を切り、血管に達すればクリップで挟んでおいて切り進む。血は流れるが、無用の血は流さない……。 ブレア英首相は「無為は行動より危険だ」と言った。外科手術中に多少の血は流れる。だが国際テロリズムという患部を放置しておけば世界は病毒に冒され、やがて文明は野蛮へと退化して死に至る危険がある。 何の罪もない数千人と共に世界貿易センターの双柱が崩れ落ちたとき、米国の指導者は「これは新しい戦争だ」また「戦争行為だ」と言った。聞いて私は、なるほどそうだと思った。メディアも戦争だと書いた。 破壊・殺傷の規模から見て、ニューヨークの金融街という「戦場」の戦略性から見て、戦争と呼ぶにふさわしい襲撃だと感じた。たとえばブッシュ大統領が掲げてきたミサイル防衛構想は、一瞬のうちに空疎になった。いくら外敵を防いでも、パスポートを持ってアメリカに入った敵が国内便の旅客機を乗っ取って突っ込んできたら、防ぎようがない。

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