「世界の工場」の台頭と不安

執筆者:五味康平2001年11月号

その圧倒的な産業競争力ゆえ、中国は確実にWTO体制で有数の大国となるだろう。だが民族系企業の育成は始まったばかり。“大きすぎる途上国”にWTO自体が揺さぶられる危険もある。 十一月十日、ドーハのWTO(世界貿易機関)閣僚会議。加盟承認後、会場に招き入れられ、満面の笑みで拍手に応える中国の石広生・貿易相。 かたや三十年前の十月二十五日、ニューヨークの国連総会。退場する台湾代表と入れ違いに笑顔で広い会場に姿を現した中国代表。 三十年の時の中で、中国は政治と経済の二つの分野で世界に組み入れられた。WTOへの加盟劇に強い既視感を覚えるのは、世界有数の政治力、軍事力を持って国連に加盟した状況と、世界を圧する産業競争力を持ってWTOに加盟した今回の環境に共通性があるからだろう。 国連加盟時に中国はすでに核兵器を保有し、ソ連と競り合う巨大な陸上兵力を擁していた。台湾の後の安全保障理事会常任理事国にそのまま座ることに誰も違和感を覚えなかった。WTO加盟にあたって中国が保有しているのは膨大な低コスト労働力と、広東省、上海などに広がるエレクトロニクスやIT関連の世界トップクラスの産業集積。国連加盟時の核兵器と並ぶ強力な“破壊力”を携えて、中国はWTOメンバーになったのだ。

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