「最悪のシナリオ」に備える

執筆者:梅田望夫2001年11月号

 十月三十日から十一月三日まで東京に居た。「九月十一日以降はじめての東京」から戻ってこの原稿を書いている。 私が不在だったほんのわずかの間に、アメリカの連続炭疽菌事件は四人目の犠牲者を出した。そして「十一月二日から七日の間に、カリフォルニア州内の四つの橋(サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを含む)でテロが起こる恐れがある」との発表がカリフォルニア州知事から行なわれ、とうとう西海岸にも厳戒態勢の波が押し寄せてきた。 短い東京滞在の間に考えたことは、日本もそろそろ真剣に「最悪の事態」に思いを馳せ「何も起こらずに無駄になればなったで、それはそれで良い」と腹を括って危機への備えをきちんとしてほしいということだった。「自衛隊を派遣しさえしなければ日本でのテロは起きない」みたいなおとぎ話と政治的思惑が混ざった空想論ではなく、「我が社の米国出張は全面的に禁止」といった思考停止的危機回避でもなく、冷静でプラクティカルな危機管理に、国家も、企業も、個人も、もっと真剣になってほしいと強く思った。 日本往復の飛行機はすいていたが警備は厳重だった。この厳戒態勢下でのハイジャックは難しいことだろうと実感した。帰宅すると、どういう郵便物が危険かを見分ける七項目のチェックリストと、心配な郵便物に対処する手順が書かれたハガキが米国郵便局から届いていた。わかりやすくて納得できる、なかなかの出来だった。

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