ドイツとベルギー それぞれの狂牛病

執筆者:大野ゆり子2001年11月号

 ドイツで狂牛病が発生したのは昨年の十一月。喉元過ぎれば、という感じで今年の夏ぐらいからパニックが薄れ、ようやく牛肉が食卓に復帰するようになった頃、「日本で狂牛病発生」というニュースが伝わってきた。 政府や関係省庁の対応が遅れたことで必要以上に牛肉に対する不安感を煽られた状況は、ちょうど一年前のドイツを思い出させる。狂牛病問題は、自国には無縁の「イギリスの問題」であり、ドイツの牛肉は絶対に安全だと、自信満々に主張してきた政治家は、国民の不信を招いただけでなく、EUの失笑をも買うはめになった。 九七年にEUが提案した「感染リスクの高い特定部位の除去や肉骨粉に関する規定」の成文化に長らく駄々をこねてきたのはドイツだっただけに、EUの消費者保護担当顧問は、「事前対策を怠った自分勝手さを反省したら」とベルリンを揶揄したのである。 そのうち、九〇年代の初めに、二十一頭の牛に狂牛病の疑いがあると報告した獣医が勤め先の屠畜場から解雇されていたことが明るみに出ると、農林族議員が意図的に事実を隠しているという情報が流れ、パニックは広がる一方となった。「町の中でクロイツフェルト・ヤコブ病患者が出た」だとか「豚肉、鶏肉も危い」だとかの噂が後を絶たず、それに振り回された。牛肉はほとんどの家庭の食卓から姿を消し、国民的な食べ物だったソーセージ類の人気も失墜した。

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