「円安」に明日はない

執筆者:2002年1月号

円安誘導の成功は日本経済の危機を救いはしない。デフレとデット(不良債権)、「二つのD」の根本治療を怠れば、先に待つのはデス(死)のみ――。 年明け早々、ワシントンを訪ねた竹中平蔵経済財政担当相に、北風はきつかったに違いない。オニール米財務長官、リンゼー大統領補佐官(経済担当)、ハバード大統領経済諮問委員会委員長らに立て続けに会った竹中経財相は、挨拶もそこそこに不良債権への取り組みを真正面から質された。 ブッシュ政権の関心は、デフレ(物価下落)とデット(過剰債務=不良債権)という「二つのD」に集中している。デフォルト(債務不履行)に陥ったアルゼンチンに比べて、国際経済に与えるダメージがはるかに大きいからこそ、米国の経済閣僚たちは日本への懸念を強めている。 デフレという病に対して、デバリエーション(円安)という処方箋を訴える日本の財務省は、どこかズレている。病根である不良債権にメスを入れずに、輸出のテコ入れと輸入デフレの緩和を狙う典型的な対症療法にほかならないからだ。十年間続けた見当違いの服薬を繰り返すとしたらデス(死)に至る「Dの悲劇」ではないか。一ドル=一六〇円説も…… 外国為替市場の参加者たちは、今のところ日本の財務省の円安シナリオに乗ってみせている。円が一ドル=一三三円台まで下落した一月九日の東京市場はその典型だろう。一月七日の竹中経財相とオニール長官らとの会談で、米国側から円安に苦情が出なかったことを、市場参加者は「円安のお墨付きを得た」と解釈し、日本政府の円安容認発言に乗ったのだ。

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