値下げはユーザーの拡大で補えた。これという競争相手も出てこなかった……。だが技術革新の水門が開いた今、もはや成熟市場の通信ビジネスにもデフレの罠が待ち受ける。 右肩上がりの成長を続けてきた日本の通信産業にとって、昨年は大きな転機だった。過去二十五年続いた「市内電話・三分十円」の料金が八円台まで値崩れし、「もっとも安定感のある通信会社」とされてきたNTT東日本まで昨年九月中間期であえなく赤字転落した。膨張を続けた携帯電話市場にも天井感がきざしている。従来の「値下げ→ユーザー拡大→増収」という成長のパターンが崩れ、値下げがそのまま減収につながる市場成熟化が始まったのだ。 この苦境からは今年も脱け出せそうにない。それどころか、NTTのある幹部は「昨年まではいわば序盤戦。今年こそ通信市場のありようが大きく変わる」と打ち明ける。ルールが大きく変わって 昨年末、ソフトバンクグループがインターネット・プロトコル(IP)を使った格安電話サービスを二〇〇二年春から始めると発表した。料金は全国一律三分七・五円で、NTTやKDDIの正規料金に比べ十分の一程度。同グループが大々的に打ち上げたADSLのサービス展開が順調に進まず苦情が殺到したことから、このIP電話についてもメディアの扱いは抑え気味だったが、大手通信会社の現場には衝撃が走った。

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